下宿の上階。/ヴィリウ
 
 下宿の上階に女郎が住んでゐた。
 座敷に出てゐる時の女がどのやうな格好をしてゐるかは知らなかつたが、開け放した窓から上体を乗り出した姿は馴染みのものだつた。
 案外に短い髪は肩で踊り、着崩した着物は藍染めのかすり。
 爪紅を注した指が握るは舶来ものの煙管。
 高価さうな物だ。
 朝の眩しい陽光の中、厭に絵に成る其の様に、大學へ向かふ足をしばしば止めたものだつた。
 
 ある日女郎の許へ男が来た。
 洋装をすらと着こなした上流の紳士だつた。
 こんな安下宿に珍しいものだと思つてゐると、不意に争ふ声が聞こゑて来た。怪しい雲行きだと足早に大學へ向かつた。
 
 夕暮れに成り、黄昏
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