パラドックス/榊 慧
夢を見た。
胡蝶の夢ならぬ、夢なのか、現実なのか、区別のつかない夢を見た。
彼は、夢の中で、花を喰らっていた。
何かの為に、必死に、花を喰っていた。
いつかその花に、喰われてしまえばいいと、傍らでぼんやりと思っていた。
嗚呼。
泣きたいと、思った。
多分、そんなことは無理だ。
人の感情は負から成り立っていると語ったのは、どこのどいつだったか。
人は欲望を理性で抑え、感情を理論に変換し、取り繕って生きている。
「愚かだな」
どこかで、低い、よく透る声がそう一蹴した。
そう、愚かなんだ、人は。
それでも、自分の化け物に喰われ
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