鎌倉/ピクルス
 

 
蝉の鳴かない朝でした
胸の端からほどけてゆくひかり
できたばかりの海は睫毛に乗る軽さ
静かに浮かぶ顔に人知れず声を燃やす

髪を結んで横たわる
約束、と呟いて水より生まれし数字を忘れてゆく
墨絵の空が一枚、句読点の雨に開く傘は
覚悟を秘めたまま決意までには少しだけ遠い
偽りあり
偽りなき
待合室の冷たい長椅子には
切手を真っ直ぐに貼れない男が座っている

まだ乙女達の脚が堅く閉じられていた頃
新しい靴が欲しかった
宝物みたいに切符を握りしめた改札口
桜を見下ろすレストラン
もう、手を洗った回数さえ思い出せない
いつの間にか誰かが九官鳥に悪い言葉を教え
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