『ピノキオ』/東雲 李葉
追い詰められているのは分かっている。
足りない機転をきかしてそれをどう切り抜けるか。
気付いているのは皮をめくって最初に見える虚実だけだから。
分かった振りをしてみたって理解には到底程遠い。
嘘も真実も大差ない。だのにそんなことに拘る。
誰も知らない私を教えましょうか?
堕ちていく様が心地良いのです。汚れていくのが好いのです。
本当のことを口に出せずに息を漏らす自分が善いのです。
私は嘘しか言わないのです。
追い詰めたつもりで嗤っている。大人は裏をかいている。
愚かな私の浅知恵では貴方を欺ききれませんか?
分かっていても無知な素振りで乱すなら、
治まり切らぬ叫びや言葉を吐き出すことを許してください。
笑うだけが人形じゃない。怒りも悲しみも硝子の眼の中。
誰も知らない私を知って下さい。
木片の足が憎くて愛しい。絡まる糸が煩わしくも嬉しい。
嘘さえ吐けないこの口が嗚呼疎ましくて美しい。
本当は誰より正直なのです。
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