金属/佐藤伊織
 
鉄の匂いを
僕は知っている

あの金属のぬめりを
僕は知っている

太陽が反射する

鉄の匂いもそうやって
空中に反射されて
四方に鉄の柱を
延ばし続ける

一面にはえた鉄の柱の枝に
人影がみえる

遠い記憶だ
僕らの家族や友人が
影になってその枝に
佇んでいる

あたりは鉄の匂いで一杯になり
錆びたブランコが
無数に揺れている

錆びたブランコが揺れるたびに
空が落ちていき
家族の影も深く地面に垂れて
伸びていく

あの金属に覆われた暮らし
あの金属に囲まれた記憶

僕の頭はあのとき
確実に
金属化されていたのだった。


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