「 当世触場事情、其の一。 」/PULL.
、ユリさんにも言ってないことがある。
あたしが自転車で通うのには、実は、もう一つ理由がある。
気持ちがいいのだ。
触場へと続く川縁の道を、自転車に乗って駈け抜ける。下の触手で力いっぱいペダルを漕ぐと、朝のやわらかい風がごうごうと音を立てて、触手の間を吹き抜けてゆく。ハンドルから触手を離し、大きく広げて、風を感じる。そうしているとすごく気持ちが良くって、あたしは何だかとっても「最強」な気分になる。今日、これから何があったって、この風みたいにやわらかく、絡まないで、あたしは最後まで「最強」で、どこまでも駈け抜けられるんだ!。
そんな気分に、なれる。
それは、たったバスで七駅のちっぽけな「最強」だけど、あたしの「最強」の宝物の時間だ。
「最強」を抜けると、触場に着く。
触場にはいつものように、マキナが先に来ている。
続く。
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