『ヤサシイ救急車のオジサンと一緒に』/川村 透
 

救急車の中だって言うと驚いた様子、
MはPTA会長で、
小学校の移転先が操業しているモーター工場の敷地内だとわかって
土壌が汚染されているかもしれないって
こどもたちのことを心配して
PTAとして、一大事だからって、言う。
強引な
敷地決定へ向けての動きを止めるんだ市長室へ行こう
って言う。
僕たちは運動場でどろんこになって遊ぶこどもたちの
体操服に、ひぞこぞうに、上気したほっぺたに
軟膏のように擦り込まれてゆく
銀色の重金属たちの夢を、見る
ベンゼン、ダイオキシン、カドミウム、六価クロム
シアン、水銀、フッ素。揮発性有機化合物。
こころなしか、かのん、の顔色が鉛色に見えて
僕はマスクをずらして、ほほ、をそっとなでた。


僕たちは50年後の、この道を
イヤイヤをするたくさんの、かのん、たちをのせて
ヤサシイ
救急車の
オジサンと
一緒に。



[グループ]
戻る   Point(35)