4月の蛇になれば彼女は 〜皆殺しの哲學〜/人間
様々な「欲望には
飲まれない」為に
人は沈黙の底に「澄んで
浮いていなきゃ」いけないと信じる彼は
ついには何も信じなかった
「海にも宗教にも酒にも知識にも、
金にも恋愛にも力にも観念にも、
溺れるのは嫌いだ」と言う彼女は6月の蜂になって森を飛び回り
乱反射する完全結晶のような複眼で草の根元から動物の寝息まで撫で
蜜の体臭を振り撒きながら無垢な受粉の手伝いを続けた
不徹底で心配性で悲観的な彼は「なんか、死にたくなってきた」ような気がして
穴の奥を覗き込むと
穴の奥に覗き込まれた
その横で彼女はトルコマーチの口笛を吹きながら「否定も肯定もせんが」
エダナナフシのような動
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