4月の蛇になれば彼女は 〜皆殺しの哲學〜/人間
 
8月に彼女は死んだ
雑木林と砂利の間で
体温を探る舌に似た細く長い指に似た硬質なツリ目が半分だけ土に埋もれていた
彼が覗き込むと
彼女の手が目が舌が伸びて
引きずり込んだら穴の中
二人の苦笑いが正午の時報になった

素揚げされる蝉を遠目に
防空壕の中でリュックを開いて
彼女の祖母が作って持たせた草餅を食べながら
ゆっくり話した事があった

「祖父も父も、職人だった」と前置きして
彼女は「この町は好きだ」から家業を手伝うと言った
「肉親は一人しか居ない」と付け加えて
彼は「母親に楽をさせたい」から有名国立大学に入って国家公務員を目指すと言った
二人は二度と交わす事の
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