断片/ピクルス
 

「夜更けに瓶を鳴らす隣の女
 明日は資源ゴミの日」

「古本屋に寄った帰り道はいつも
 サイレンとすれちがう」

「縁側で
 洗面器に水を溜めて月を映す
 ときおり揺らせながら酒を呑む」

「男は冬の駐車場に指輪を埋めた
 女は春の海に指輪を投げた」

「自分ではない誰かが考えてくれるだろう
 たとえば排水溝の行方について
 とりあえず顔を洗う」

「映画の仕事がしたい
 と綴って幾年月
 まだレジを叩いてます」

「夕暮れが一斉にサンダルを鳴らす祭りの日」

「その夜は
 僕が煙草を取り出すと
 君は皿を洗い始めた」

「猫舌なのでね
 冷めるのを待ちながら
 割箸で16ビート」

「夜を漕ぐ独りのおんなが
 口を開けている
 天井が軋んで
 我にかえるまでは」

「こぼれるように鳥が休む樹々から
 いっせいに朝が始まる約束だ」







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