やさしいいいわけ/小川 葉
はじめからこうでは
なかったはずなのに
無垢であるには混沌としている
空の色はもっと
違っていた気がする
もっと緑がかっていた気がする
ふたりはもっと
透けていた
むこうが見わたせるくらいに
ぼんやりと輝いていた
あなたもいま
同じことを考えていて
なにもいわない
わたしも
なにもいわない
やさしさがまだ
のこっていたのだ
空にむけられた
まなざしは彼方のほうへ
のびていって
どこか遠い
名前を持たない
星のようなところで
いつしか人知れず
しずかにまじわるのだ
それは明日かも
しれないし昨日だったのかも
しれないし
よくわからないふりを
しているだけの
二人の世界は
いいわけのように
あやうく美しく
みごとに
調和して
しまっている
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