ノート/山中 烏流
描かれた無数の黒鉛の跡は
私の知りうる中で
最も綺麗な色へと染まり
それは束となって
脳へと滑り込む
シナプスを経由して
緩やかに飲み込まれるのを
私は瞬きをしながら
じっと、見つめて
無意識に動いた
指先がなぞるのは
いつか見せた落書きの
消えかけた名残
それを素敵だと誉めた
母親の前で
指導者と信じていた手が
私の頭を
叩いたのを覚えている
したたかに
罰をつけた赤い線は
私を流れる脈のように
蠢いていた
切り裂いて
流れ出るのを待った私に
兄は小さな罰を
青く引いていた
風が、
ページを撫でるように閉じて
わざと薄く書いた
私の名前が顔を見せる
隠すように手を添えて
鞄へとしまい込む
シナプスを経由して
私の名前だけを
隠して、しまいたかった。
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