私がトンボだった頃/まどろむ海月
 





あてもない旅の
白い起伏を
さまよって
います


私が蜻蛉だった頃
あなたは



 真夏が大好きなあなたに
 暑いのが嫌いだと言えなくて
  でも五月が好きなのは
  ほんとうだったのです



 辛かったのは夏ではなく
 暑さから逃げたわけでもなく

 辛かったのは
 あの冬も春も秋も



 幸せには見えなかったあなたに
 時に犯されていくあなたに
 差し伸べる手を持たない自分から
 逃げたかった



 それにふさわしく
 わたしは
 風にただよい
 さまよう蜻蛉

 きめこまやかな
 肌を追憶して




やわらかな白を
ばら色に染めながら
闇に落ちていく日


私が蜻蛉だった頃
あなたは
どこの
秋だったの



        








戻る   Point(9)