夏の骨/木屋 亞万
 
ひと夏のあいだ
あおぎ続けていた団扇
骨だけになって
白いプラスティック
手に馴染んできた
縦じまの持つところ
右手を呼んでいる

いつから皮が剥がれ落ちたのか
水かきの無い手のひらは
黄ばんだ骨を手に取り
何の抵抗もないまま
空振りを続けている

思えば空振り以外
経験していない手触りは
微かに空気の重みを含んでいた
金魚の重さもないまま
一匹も掬えないで破けた
屋台の丸い紙とは違う

面影はあるが
思い出せない思い出
尾を引く情念だけ
葬られることなく
骨となる

散乱する骨は季節の残骸
原形を留めているうちに
尾を切らないと
思い出せないがために
忘れられなくなってしまう






戻る   Point(3)