『ヒグラシ』/東雲 李葉
空は日に日に高くなる。太陽も少しずつ優しくなる。
蝉の声も途切れ途切れで風は熱を失い始めてきた。
忘れかけてた淋しさが波のように押し寄せる。
夏が終わってしまう。夜の声が増えてゆく。
子供達の虫かごには命を終えて乾いた身体。
僕の手の平には滑るような涼しい風。
忘れないよ、なんて軽薄だね。
今年もこうして君を知らずに過ぎてしまった。
忘れないよ、なんて軽率だね。
叶わぬ言葉は胸の中にしまっておくものだ。
窓の外から弱々しい光。
消える前の蝋燭みたいに叫ぶような虫の声。
夏が、終わる。空は日に日に遠くなる。
僕の記憶は途切れ途切れで願いは熱を失い始める。
忘れてもいいよ、でも、
忘れたくない、なんて。
滑稽だね。
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