忘れられた醍醐味/楠木理沙
人生において
お金持ちになること
子供のころから夢見た職業につくこと
外見・内面ともに素晴らしい生涯の伴侶を得ること
それらを叶えることは可能性としては開かれている
人生において
貧乏になること
夢半ばで挫折すること
一人で生涯を終えること
それらの状況に陥ることは可能性として存在してしまう
しかし いずれに転ぶにせよ人生をはじめからやり直すことは出来ない
双六を振ってふりだしにもどるとき
肩の関節が外れるような徒労感とともに
言いようのない感覚―それは決してネガティブなものではない―を覚える
それは安堵感にも似た感覚
ふりだしにもどる
それこそが双六の醍醐味に違いない
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