名もなき夏の島にて ★/atsuchan69
 
真下に拡がる海原は
厳しく削られた岩の入江を包み、
とうに半世紀を過ぎた
今しも汽笛の鳴る港へと
煌めく漣(さざなみ)を寄せて

夏の賑わいが恋人達とともに
古い桟橋を大きく揺らして訪れる
そろって日に焼けた肌や
水着姿の往きかう坂道だの

あの日、キスばかりして
砂浜に忘れた浮輪とパラソル

燥(はしゃ)ぐ声を砂に埋め、
渇いた唇で忙しく即興の台詞をならべた
渚に残したいくつかの記憶は
失くしても、きっと悔やみなどしなかった

白いペンキの眩しくかがやく
樹々に隠れた丘の家で
時折、海を眺めて沈黙した
夕凪の吹くテラスの粗末なテーブルに

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