「 殺夏。 」/PULL.
叩きつけた拳は、ざっくりと裂けた。引き
抜くと何かが落ちて、コンクリートを叩く。
歯だ。血塗れの口を押さえのたうち回る一人
目の腹に、つま先を食い込ませる。骨の砕け
る、柔らかい感触。二人目が、来る。遅い。
殴られるよりも先に、おれは殴っている。拳
がまた裂ける。痛くない。肘を飛ばす。二人
目の前歯が、粉々に弾け飛ぶ。来る。三人目
だ。だが遅い。おれの踵は膝を砕いている。
観客の声が一段と高鳴る。「殺せ殺せ。」と
怒号が飛ぶ。四人目が、見えた。もう遅い。
逃がさない。恐怖に見開いた目の中で、おれ
が、笑っている。おれは目を抉り出し、観客
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