水没/南 広一
 

他人のような起床だった
おまけに
水が揺れて上がれない
くるまれた水のしろい肢体が
暗いほうへ暗いほうへ
流されていく
そんな部屋で寝ていたからだろうか
朝になっても
何処にも辿り着いていない
ことにほっとする
わたしの目の前で
時計とかテレビとか
朝の小躍りをくりかえす
おはよう
ダイニングテーブルの脚が
また 1本おとされる
この1日の傾斜が
おもいのほか なまぬるい
樹木のようなものに
しがみついて
じゅんじゅらいおうがすと
ここから先はテンポよく
水を何度ものまされる
いつまでたっても
上がれないまま
沖へとどんどん流されていく




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