博士たちの受難/池中茉莉花
 
も行けなかったけれど。でも、「ふたり」はうれしいこと。
 今年、ふたりは四十を迎えた。
 だが、この四月、二人の職の更新は切れた。しかも同時に。机だけはのこされたが、ふたりには何の肩書きも所得もない。

更新切れが決まった日、風子は沸騰しきった頭を、タバコで黄ばんだ研究室の壁に思い切り、ぶつけた。
風子のおでこにはまだその時の痣がのこっている。
・・・  

              
風子と秀也は 布団の上に 正座して 向かい合う
ふたりとも 自分の膝を見つめたまま
「逃げるか 逃げないか」
(手を取り合えばどこにでも行ける。でも、これが私たちの仕事。「どうする?」「どうしよう。」)

手持ちの金はないわけではない
明日はなんとか暮らせるだろう

でも、このうすら寒い街中に、深夜が訪れるたび
地下鉄の駅から 放り投げられ、彷徨い歩く日も そう遠くない
そんな気もして

ふたりの結論は まだ出ない

カーテンの隙間から容赦なく朝の光が刺し込む
微動だにしない ふたりを照らす

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