函館の朝/池中茉莉花
 

こんな日でも 冷たくないんだ
そう 人肌くらいなのね

もう一度 強く書いてみる

わたしは2回でいいわ
これ以上 砂を いじめたくない

青年はまだ 書いている

十分じゃないの 感じたはずよ
砂から伝わる 体温を
と、その時 彼とわたしが 書き散らかした
文字たちを
ざっぶんと波がさらっていった
 

「食べてないねえ。牛乳のむ?」
そっか。朝ごはん中だったのね
ごはんに たっぷり 塩辛をかけて
大きな口で ほおばった

あとで海を見にゆこう

そして 砂浜に
「生」という文字を 
書き残そう



※「大という字を百あまり」
:「大という字を 百あまり 砂に書き 死ぬことをやめて 帰り来たれり」
  石川啄木『一握の砂』より

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