眠れる薬を/川口 掌
まるで無機質な
蝉の声が聞こえる
吹き抜けて行く風が樹々を揺らしざわめかせる
時折風は窓を叩きガタガタと揺さぶる
キーボードを打ち付ける
タイピングの音が重なり木霊する
飽きる事もなく
永遠に書類を吐き出し続けるプリンターの作動音
配達に走る車のエンジン音や
交差点でアスファルトを噛み混むタイヤの悲鳴
行き交う通行人の賑やかな笑い声
明日へと向かう生きて居る証しが
引っ切り無しに近付いては遠ざかり
遠ざかっては近付いて来る
何処遠い音を聞きながら自らもキーボードを叩き
プリンターにプリントアウトを命じる
自分にとって全く無意味に思えて来た
いつまでも続く音源を
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