手をつなぎたいのは あなただけ/蒼木りん
 
今夜 路地裏にも
雨が降り円を描く

綺麗なものは
もう見えない
夢見る貴方の声は
年月に萎れていた

『百合は
 あと一輪だけになりました
 季節なんて
 私が箱の中で身を削っている間に
 逃げてしまいます 』

ほら もう
水田の稲があんなに伸びて
張った水が濁っている
蛙が顔を出して鳴いている

雨よ雨よ 
俺等の雨よ

紫陽花よ紫陽花よ
でんでん虫の紫陽花よ

草も樹も
家も足元も
すべて緑色に濡れていく
緑色の雨に染まっていく

『貴方が
 愛してくれないから
 百合は蝋細工のように
 枯れていきます
 人の心は移ろうのが常ですね 』

私の前に貴方はいない
貴方の前に私は要らない
向き合わないままに焦れて
喘ぐ声は殺された

不義なら
目を瞑ればいつでも
けれど
貴方とではなく

手をつなぎたいのは
あなただけ

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