手をつなぎたいのは あなただけ/蒼木りん
今夜 路地裏にも
雨が降り円を描く
綺麗なものは
もう見えない
夢見る貴方の声は
年月に萎れていた
『百合は
あと一輪だけになりました
季節なんて
私が箱の中で身を削っている間に
逃げてしまいます 』
ほら もう
水田の稲があんなに伸びて
張った水が濁っている
蛙が顔を出して鳴いている
雨よ雨よ
俺等の雨よ
紫陽花よ紫陽花よ
でんでん虫の紫陽花よ
草も樹も
家も足元も
すべて緑色に濡れていく
緑色の雨に染まっていく
『貴方が
愛してくれないから
百合は蝋細工のように
枯れていきます
人の心は移ろうのが常ですね 』
私の前に貴方はいない
貴方の前に私は要らない
向き合わないままに焦れて
喘ぐ声は殺された
不義なら
目を瞑ればいつでも
けれど
貴方とではなく
手をつなぎたいのは
あなただけ
戻る 編 削 Point(1)