【小説】月の埋火/mizu K
どどどう、どどどう。
耳鳴りで目覚めたように思ったがそれは絶え間なく聞こえ
る潮鳴りであった。
どどどう、どどどう。
遠くか近くかわからないが、その音は聞こえる。遠くの方
で誰かが呼んでいるように聞こえるときもあれば、耳のなか
で鳴り響いているように思えるときもある。
そうだ、耳鳴りのように思えたのだった。
目を開けているが天井は見えない。それほど深い闇はもう
久しく見ていなかった。床についてからしばらくちりちりい
っていた囲炉裏も今は静かになった。寝息はどうだろうか。
聞こえない。それよりも潮鳴りのほうが近いのだ。沖合いに
少しずつ引き込まれる感覚がくる。呼ん
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