9秒/桜井小春
 
どうしてかな。

あなたの顔が思い出せないんだ。

存在だけは私の中に

眩暈がするほど鮮明に

鬱陶しく残っているのに。



過去は捨てるものではなく去り行くもの。

列車に乗って景色が後退するように

気が付けば遠く、遠く

残像すら残らない。



あなたの姿はその中に溶けてしまったのですか?

そこに在った、という

確かな真実だけを私の胸の中に置き去りにして。



望んでいたことなのかな。

望んでいたことなのかもしれないな。

しかし

薄れても

薄れても

完全に消えることなんて在りはしないのです。
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