小品/Utakata
1.
詩人に必要なものはインスピレーションなどではなく、言葉がもっとも力を持つ瞬間を待つための自己抑制力なのだと気付いたが、僕の知っている詩人の一人は、とうとうその瞬間を目にすることないまま、手の中の思いを一つまた一つと腐らせていった。
2.
向かい合った猩々が長い指でタイプライターのキーを叩いている。どう見ても玩具としてしか見なされていないような鈍重な機械からはシェイクスピアとは程遠い文字の羅列が吐き出されているのだが、うんざりとして席を立とうとするたびに、目の前の猩々が妙に意味ありげな笑みを浮かべている気がするので、結局その場から離れることができない。
3.
夕立に降られるた
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)