そして僕は絵描きを名乗る/桜井小春
 
僕の中で何かが弾けた。



白いキャンパスに向かう。

4Bの鉛筆が軽やかに舞う。

絵の具をつけた筆が軽やかに舞う。

僕は一枚の絵を描き上げた。



君の絵。

柔らかく微笑む

君の絵。



昔の僕だったら

またパレットナイフで

この絵を切り裂いていただろう。

何せ

酷い出来だったから。

でもそこに空虚感は無く

変わりに芽生えたのは



君に対しての愛と

この絵に対しての愛。



君は僕の絵を見て

「とっても素敵な絵ね」

と言ってキスをくれた。

僕の目に熱いものがこみ上げてくる。

目の前の君と

絵の中の君がぼやけた。



僕は生まれて初めて

絵描き



名乗った。




戻る   Point(1)