あいのねこ/夕凪ここあ
おまえの背中には
あいに似た形の模様
いちばんに覚えるひらがなみたいに
あたたかでどこかさみしいのは
いつか
忘れてしまうものだからだった
目覚めると
背中を撫でていたはずの右手が
おぼろげな二文字をもう忘れかけている
どうりでかなしいはずだ
燃えるような橙の陽炎の窓を開けると
あの夏の放課後
にゃー
おまえの鳴き声が聞こえた気がして
台所からにぼしを一切れ握る手はあの日より
一回りも二回りも大きくなって
当然、嘘も覚えてきた
そうだな
今日は家の引き出しを
片っ端から覗いてみることにしよう
探しものをするみたいに
また
出会えたらいい
やわらかなしあわせに
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