じっとりと雨に濡れた夜の草の匂い/円谷一
 
じっとりと雨に濡れた夜の草の匂いが外からする
窓は閉め切っているのに 雨も降っていないし 夜でもないのに 外に草むらがないのにだ


裸足で大都会を歩いて抜けて郊外に出ると風に新幹線に乗っているようなスピードで流れる景色を新鮮な空気を吸いながら蒼い富士山だけを静止させて眺めていた
河原を痛みが足の裏に突き刺さりながら川を目指していった 急に太宰治のことを思い出した 入水自殺 彼ともう一人の女性のシルエットがぼんやりと眼前に浮かびだした 彼らに重なりながら川に傷だらけの足を入れた
水温は生温く川底はぬるぬるしていた きっと魚がいるのだと思い昨日の雨で増水し上流から流れ込んできた土砂で濁
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