シュウちゃん/石原ユキオ
シュウジはもう随分飲んできているようだった。隅っこのテーブル席で、コート着たまんまで細長い身体を丸めて、携帯電話のクルクル部分をクルクルいじっていた。(つか何年前のだよ。いい加減機種変しろ)目はケータイを見ていない。視線は店の壁に掛けてあるビアズレーの絵のあたりに向いているけれど、たぶんそれも見ていない。お得意さんだからあたし出るね、とバイトのまみちゃんに言って、私はカウンターを出た。
「シュウジ」
シュウジは、顔を上げた。にっこりと笑った。いい笑顔。赤らんだ頬にニキビあとが目立つ。また、痩せたかも。シュウジは親指でケータイをいじりながら、
「ビール」
と短く言った。
右手の甲に
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