雨情/あずみの
 
雨の中ひとり池に糸を垂らす釣り人の背中が背負う哀愁は
都会の交差点で人混みに揉まれているときに不意に感じる孤独に
似てはいないだろうか

とてつもなく独りなのだ

誰も己を知らない安心感は
自己否定と常に背中合わせだ
他人が認識しない己は
何をもって存在を肯定すればよいのだ

足下の地面が無くなる感覚を感じたことがあるか
それは闇への甘美な誘惑と共に
背筋の冷えるほどの恐怖ももたらすだろう

雨の日は異次元への扉に気をつけなければならない
しかしそれは同時に絶好の機会でもあるだろう
水の帳は人間の存在を曖昧にしてしまうから
人間の気配を稀薄にしてしまうから

誰もあなたが消えても気付くことはない
誰もわたしが消えても気付くことはない

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