"あなさびし"/ゆるこ
 
 
 
あなさびし、
って
三十回言うと
幸せになれるらしいよ
 
酷く輝いた瞳で言う君に
一抹の不安を抱えた僕は
言わなくていいよ
と
少年のように返した
 
別に言ってもいいじゃない
へるもんじゃないんだから
と
お構い無しに始める君を
防空壕の中から空を覗くような気持ちで
ひっそりと見ていた
 
 
三十回目のあなさびしは
とても綺麗な響きをして
世界の美しさを全て誘発させた
 
 
最後の、し
を言い切ると
君はまぁるい小人になった
 
酷く純粋に
にこり にこり
としていて
 
自分から僕の胸ポケットにもぐりこんだ
 
 
君は小さな声で、
おやすみ、
というと
静かに僕の心臓に吸収された
 
 
真っ赤になった僕の瞳は
なにもかもが嘘に思えて
 
迷わず三十回の幸せを唱え始めた
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