A wandering fish/shu
オレと会う前に
きみは何を見てきた?
「んじゃ行ってくるわ」
彼女はいたずらっぽくそう言って
いつものように自分の片方の目玉を
取り出して渡す
何のためにそうするのかはわからない。
そうして軽やかな水音を残して潜っていく
オレは渡された目玉を氷漬けにして
彼女の帰りを待つ
彼女が深い水底で一体何を見ているのか
瞳の奥の黒曜石のような暗闇は
なにも映さず語ってはくれない
それでも一日中その瞳を見ながら過ごす
飽きることはない
雲間から日の光が幾筋も差しはじめた
天使の梯子というやつだ
洗濯物が乾く頃にはきっと戻ってくるだろう
興奮し紅潮した頬を膨らませて
水着を脱げ捨てベッドに潜り込みオレを誘うのだろう
片目のないウインクしたような顔で
錆びついた中指を立てて
シーツの渦にくるまって
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