包まれる夏の風景 デッサン/前田ふむふむ
を増してくると、
仕上げのために用意した、鋭利な赤色が、
海の波のカーブを覆っていく。
わたしが、一面を赤く塗りつぶそうとすると、
あなたが、強く筆を取る手を握って、
泣いて制するのだ。
動かなくなった赤い筆をもつ手を眺めながら、
今日も、あわい織物のような一日が終わっていく。
無防備な海鳥が、傍らで、翼をやすめる。
一羽、また一羽と。
赤く染まった手を洗いながら、
わたしは、海鳥と、いっしょに、
夕陽に染まる、過去となった水平線を包んで、
その彩りを、翼のなかに仕舞いこむ。
古いフイルムも、黄砂も、カンパスも、
翼のなかにいる。
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