包まれる夏の風景 デッサン/前田ふむふむ
暑い夏だと、手がひとりでに動く。
発せられなかった声も、潮風の涙腺にとけて。
装飾のための深い窪みまで、
透き間なく、枯れている、古い桐箱に眠るフィルムを、
年代物の映写機に備え付ける。
暗室の煙たさは、
カラカラと音を上げる回転のなかで、
父のようななつかしさを、
引きだして、
わたしは、昼と夜とを、
見慣れた岬の断崖の端から、前に進んだ。
海風が背中を押しているので、
波のようにフィルムの濁流を歩けている。
カウントされる数字の後に、
黄砂のような皮膜が、一面塗されて、
ところどころ欠落した、白い燃えつきた時間のなかから、
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