私の為に死ねるなら/桜井小春
「ねぇ、あなた、私の為に死ねる…?」
休日の昼のブレイクタイム。君はキッチンで、僕と君のコーヒーを淹れながら、僕に背中を向けたまま言った。コーヒーの良い香りが漂ってくる。コーヒーで頭を覚醒させるつもりだった寝起きの僕は、先に君の質問のほうで完全に目を覚ました。
君と暮らし始めてからもう随分経つ。僕らは時にぶつかり合い、時に傷つけ合いながら絆を深くし、今ではその辺のおしどり夫婦にも負けていない、と僕は思う。
「当たり前だよ」
振られた質問に、僕は「当然だ」といった風に返した。きっと君は笑顔で振り返って「大好き」と言ってくれるのだろう。そう思っていたのだが。
君は僕に背を向けたまま。
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