人違い/小川 葉
あの家は
ぼくの家だ
あの人はぼくの
お父さんで
お母さんで
お姉ちゃんも
いるんだ
と言って
なかなかきかなかった
それからというもの
人違いは私にとって
いわば処世術
のようなものに
なってしまっていた
という話を
さっきから聞かされて
私を誰と人違いしたものか
居酒屋のカウンターの
隣の席で飲んでいるその人に
あなたは私を
おそらく誰かと
人違いしてますよ、と
なかなか言い出せないまま
ずるずると一緒に
飲んでいるところへ
お銚子をはこんできた
店の親父がその人の
実はほんとうの
親父だったことが
何らかのきっかけで
判明してし
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