白檀/ヴィリウ
何時か私に与へられた凡ての時間が満ち、
貴方と、同じやうに目を閉ぢた時、
屹度、笑つて下さいね。
あの頃のまゝ、
私が愛した貴方のまゝ。
本当は、何時も焦れつたいやうな思ひで待つてゐるのです。
まだか、まだ時は満ちぬかと。
貴方は御怒りに成るでせうけれども、
・・・御察し下さりませ。
貴方の居ない此の世が、どれ程虚ろであるのかを。
だうせ何れ逢ゑるのだから、今を投げるなと貴方は云つたけれども、
解りますまいね。
私の、思ひを。
貴方無しでは、此の世は空蝉のやうだと。
何時か飴色に溶ける記憶の中で、私に残つた凡ての時間が満つる迄、
ねえ貴方、
想ひ出でも構はないから側にゐて下さい。
そして此の手が届く其の時には、
御願ひです、
笑つてゐて下さいませね。
あの頃のまゝ。
目が眩むやうな好い香りをさせて。
貴方が愛した白檀の香は今、
絶へる事無く私に寄り添つてゐます。
今の私は其れだけで、
此の世を生きる事が出来るのです。
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