猫/雪井世良
恋もなく
約束もなく
肌と肌の接点
産毛の重なる薄い隙間に潜む温度
これが わたしたちのすべて
心は
皮膚から最も遠いところに息づく
何かおっしゃった?
その振動もはるか届きはしない
しあわせ 好き
欲しかったと そう言いましたか
いいえ
黙ってください
このままで
どうか このままで
唇に触れた感情が
哀れになるだけ なぜなら
恋でもなく
約束でもなく
博愛の抱擁の延長
個の領域に変換することのないまま
互いに擦り寄った
わたしたちはただの
猫
なのですから
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