小さな/あずみの
 
浴槽に浮かんでいた小さな虫の死体
小さな小さな

わたしが少し波を立てたら
もう沈んで見えなくなった

彼は
どこまでも広がる青空を見ただろうか
暖かな太陽のひかりを浴びただろうか
美しくきらめく雨粒を受けただろうか
優しい月夜を飛んだだろうか
芳しい花の香りをいっぱいに吸い込んだだろうか
静かな白い雪の日を凍えて過ごしただろうか

そうであったらいいと思った
こんな
彼にとっては大海にも等しい
こんな人間の浴槽で
生涯を終えてしまったのならせめて

この世界の美しいものを
全て見てからだったら
救われるのに、とそう

それが例え人間の
傲慢だったとしても

どうか安らかに
暖かな波に抱かれて
おやすみ

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