夏は、山の水が澄みわたるので/yo-yo
 
古い家の
納戸の隅とか仏壇とかに
小さな暗やみがいっぱいあったけれど
おばあさんがいつも座っていた
土間につづく台所にも
深い暗やみがあった

その暗がりに何があったのか
覗いたこともなかったけれど
こおろぎのようにぴょんと
おばあさんの声が飛びだしてくる

たまごやき焼いとくさかい早よ帰っといでや

坂の道を
汽車が駅に着いたときだけ
人々のかたまりが通り過ぎる
勝手口からおばあさんの大きな声が
ときどき村人の足をとめる
山の上に帰るひとも大きな声で
あとは再び静寂

夏は
山の水が澄みわたるので
魚たちが沢をのぼる
夜中に石のように濡れていると
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