ゆりかご/小川 葉
修理相談センターに電話すると
またあの女のひとが出る
状況を報告して電話を切って
しばらくすると
修理のトラックがやってきて
私を段ボール箱に梱包して
工場へ連れて行く
修理されているあいだ
私は工場を見まわす
あの女のひとの気配はない
ただ、昼休みに
工場の外から聞こえてくる談笑の中に
一瞬、声が聞こえるような気がしていた
修理相談センターに電話すれば
かならず聞こえてくる声
私の製品番号をおしえてからというもの
かならず電話に出る声
遠い記憶の母に似ている声
修理の依頼ではありませんが
もしさしつかえなければ
会っていただけませんか
ある日電話でそう言うと
あいにく私は受付業務専門で
いたしかねます
それでは失礼いたします
冷たい口調で電話が切れて
しばらくすると
修理のトラックがやってきて
作業服を着た母が
私をゆりかごに入れて
懐かしい場所へ
連れて行った
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