紅い夜空/松本 卓也
深夜だというのに遠い空は
いつも紅く燃えている
街の明かりにしては冷たく
群集を誘う目印にしては穏やかで
坂道の中腹で眺める景色は
星や月と並べるには不釣合い
ほんの少し前まで
あそこに居たのが
信じられないほど
肌にまとわりつく湿気
髪を重く沈ませる汗
重い足と痛む腰
焦点を失くした視線
体は眠りたがっているのに
頭は起きて居たがっていて
明日という名の今日を思う
憂鬱ささえ楽しんでいる
我が家まで数十歩
電車など来ない線路を超えて
癒したのは体の疲れか
それとも心の軋みなのか
陽炎が遠くで揺れている
夜はもう睡眠以外の選択肢を
何一つ残してなどいない
せめて明朝溜息で目覚めぬよう
紅い夜空が与えてくれた
仮初の温もりを抱いて
夢さえ忘れて
さぁ眠ろうか
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