海の父、海の母/桜井小春
 
あなたが灯台になった



囁く波の声が聞えた

から

私は書きかけの手紙を放り出して

服のまま海へ飛び込んだ。



きっと

あの人工岩を越えればあなたに会える。

そう信じて

重い体と重い服を引き摺りながら泳いでいった

けれど

積み上げられたいびつな形の岩の島を通り過ぎても

あなたの姿はこれっぽっちも見えなかった。



やがて夜になり

星も出ていない空

タールのような海

必死で進むのだけれ ど

体力ももう限界。

会いたい気持ちばかりが募って

想い体

想い服。




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