病める女 /服部 剛
 
貧しい村の群衆に紛れ  
無数の足音の下を  
痩せ細った  
病める女が這っていた  
低い目線の前に  
舞う砂埃(すなぼこり)の向こうで  
長い間-----   
女が探し求めた  
その人は  
静かな足取りで歩いていた  
忙しい無数の足と  
砂埃を貫いて  
血管の浮き出た白い手首を  
必死に伸ばした指先は  
静かに歩くその人の  
衣の裾(すそ)に  
微かにふれた  
( 誰かが、わたしにふれた・・・ )  
群衆の渦の中で立ち止まり  
振り返ったその人は  
そっと腰を下ろし  
今にも涙の溢れそうな  
病める女の窪(くぼ)んだ瞳を 
じっと 見つめた  
ひと時の間(あいだ)  
その両手は長い黒髪を  
包んでいた  
その人と病める女の 
周りには 
沈黙する群衆の 
輪ができていた 
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