MERKAVA/10010
 
前しか残されていない。しかし最初から、名前しか無かったのかもしれない。君の「正しい」名前など憶えることができようはずもない。わたしはただ呼びかけるだけで精一杯だった。名前。生と死、以外のなにものか。そしてまた、生命の樹セフィロトの下で、わたしもまた生や死、以外のなにものかとして……。窒息するほどの花に埋もれて、花園はわたしを侵蝕する。わたしは花園を蹂躙する。名を付け、殺害し、名を呼び、咲き誇る、《誰でもないものの薔薇》。わたしは花園を蹂躙する。神の戦車メルカバを駆る、天使のように。



花の輪唱がわたしを取り囲む。枯れてしまったとしても唄い続けるだろう。唄うのは言葉であり、名は残り続け
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