アベック/紀ノ川つかさ
「アベックが歩いているよ」などと言おうものなら
君はすぐ口にするのだ
「今時『アベック』なんて死語。『カップル』って言えよ!」
君は他の死語には何も言わない
「チョベリバ」だろうが「胸キュン」だろうが
何の文句を言わないくせに
どういうわけか「アベック」にだけは目くじらを立て
過剰なほど反応するのだ
タウン雑誌を開けば
あるいは深夜のテレビをつければ
そこに映っているのはこじゃれた流行と
若い男女のつがいであって
それらは皆「カップル」と呼ばれる
だからだ
君は「アベック」という言葉すら
聞きたくないのだ
メディアの発信する流行りの情報に
ついてまわる「カ
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