紫陽花/松本 卓也
 
高尚な講評の歓談を眺めていると
自分の階層が何段か下であるような気がしてくる
それがどれくらい卑屈な自嘲から這い出ているか
大した意味を持ってないのは分っているつもり

朝目覚めさせた雨音は
鎖を首に巻く頃には止んでいる
眼鏡を曇らす湿気が翳しているのは
紛れもなく今日が残骸である証だ

白昼天井に染み渡った虫の汁を数える度
窓を透過できない鳩が墜落していく
溜息を心の隅っこに数個並べてみると
愛想笑いを浮かべた道化師が現場復帰

今日はもう始まる前の段階で終わっている
明日はどちらかといえば昨日と似通っていて
押し潰れた壇上の願い事の上に
それはそれは美しい紫陽花が咲く

蔑むように崖下の僕を眺める花びら
消し炭と見まがうような蛇の抜け殻
最下位底辺でもがくふりをするには
あまりにも多くの現実が並列していて


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