伽羅の焼香/アハウ
朝日の当たる
マンションのベランダで
昨日の祈りで
天界へと返した霊たちに
伽羅の焼香をする
ミネラル水とミルク入りコーヒーを添えて
また 暑い夏がやってきます
あの日のように
空は晴れ上がり
じっとりと汗をかいています
六十年以上の月日が流れたのですね
言い伝えに聞くあの日々は
あたかも『地獄』がこの世に
せりあがって 狂喜乱舞した
血と涙と嗚咽と絶望の放心の暗く冷たい地下室
溝鼠が腐乱した下水道に浮かぶ我々の死体を無心に食らう
うめき声の季節だったのですね
アウシュビッツに送られた
ユダヤの民を
この太陽と月と星々の輝く天界に返す事
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