意外と遠くまで跳ぶ/床野トイツ
 
よく見る夢の中で
会ったこともない自分が
苦い微笑を湛えて
母親のようにやさしく
手を振っているのが
そのまま来いということなのか
戻ってやりなおせということなのか
遠くてよく見えないので
確かめに行こうとおもっている

ときどき夢を真似て
会うこともない自分に
せいぜい悩むがいいと
姉のように意地悪く手を振るのを
洗濯場のいちばん近くに佇む
電信柱にいつもとまって
こちらを監視している大きな鴉に
あざ笑われたりしながらもやめない

覚悟はできてます
泥田で動けなくなったら靴を捨てればいいだけのこと

そうおもいながら
ほんとうに捨てるかは別と
舌を出すような根性がありそれは
理不尽に耐えるというあれではなくて
もっと自由で発芽のよう

全身全霊をへなへな
のらりくらりと命がけ
ただそれだけで意外と
遠くまで跳ぶのだ
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